アンプで最もありがちで恐るべきトラブルは発振です.発振はいわばアンプの暴走状態です.発振が生じると,最悪の場合,負荷(ヘッドフォン,スピーカー)には可聴域を遥かに超える高い周波数で電源電圧一杯の電圧がかかり続けます.たいへん危険な状態です.
A496は発振を起こさせないための対策を複数施しています.
右の2つのグラフはLME49600のデータシートから抜き出したもので,それぞれ,増幅率の周波数依存性,位相の周波数依存性です.
理論上,アンプは位相が180°以上遅れた高周波域で増幅率が零より大きいとき発振します.上の右側のグラフが位相を示しています.最小値が−50°で切れているので正確には言えませんが,グラフ曲線の降下の具合からすると100MHzを少し越えたあたりで−180°に達しそうです.このときの増幅率を左側のグラフで見ると,ちょうど山ができている辺りに相当し増幅率は2倍(6dB)以上にもなっています.
LME49600をオペアンプのフィードバックループ内に入れてオペアンプにユニティゲイン安定なものを用いると,いきなり発振が生じる可能性は低いです.しかしながらオペアンプが安定条件を十分に満たしていないような場合やヘッドフォンや接続ケーブルの静電負荷が大きい場合には発振が生じやすくなります.
ヘッドフォンケーブルの静電容量は数100pFから場合によっては1000pFにまで及びます.ヘッドフォンアンプは,この静電容量も負荷として駆動しなくてはなりませんが,これは容易にアンプ発振の原因になります.
A496では発振対策として,まず,Zobelネットワークの設定を可能にしています.Zobelネットワークは高周波域におけるインピーダンスを引き下げる効果があります.右図で言うとRLを引き下げる効果があり,結果的には高周波域の増幅率の山をなくすことができます.
次にLR(コイル・抵抗)構成によるアイソレータ回路の設定も可能にしてます.Zobelネットワークはアンプ側から見たときの負荷の周波数依存性をフラットにし,アイソレータ回路は周波数が高い領域でアンプと負荷を分離し容量性負荷による発振を防止する効果があります.
Zobelネットワークとアイソレータの設定については,Tipsにて解説してます.
さらに帰還抵抗と並列に小容量のコンデンサの設定を可能にしています.このコンデンサは,高周波域における帰還量を増加させることで高周波域の増幅率を引き下げるとともに,位相を進める効果があります.さらに電圧増幅を行うオペアンプからの出力を小容量コンデンサを介して帰還回路へ接続できるようにしています.
|